オシアナスのデザイナーに訊く、ブルーと共に歩んだ20年の軌跡
こんにちは、カシオnote編集部です。
カシオの時計ブランドの一つである「OCEANUS(オシアナス)」。
デジタルウオッチがメインだったカシオが、2000年代に入りアナログウオッチ分野でも新たなポジションを築くべく、立ち上げたブランドがOCEANUSです。
今年でブランド誕生20年を迎えるOCEANUSですが、ブランドを象徴するのがオシアナスブルーとも呼ばれる美しい青の表現です。
今回は、立ち上げ当初からオシアナスに携わるデザイナーの白石さんに、これまで歩んできたブルーへの探究の歩みについてインタビューしました。
ブランド立ち上げ時はブルーの時計でなかった
―OCEANUS(オシアナス)の第一号機が発売されたのは2004年ですが、当時からブランドカラーとしてブルーを据えていたのでしょうか?
白石:ブランド名の「OCEANUS(オシアナス)」は、ギリシア神話における海の神「オケアノス」に由来しているので、当初から海はイメージとしてありました。
その表現として、第一号機の「OCW-500」には、センター秒針にワンポイントカラーとしてブルーを使いました。ただ、ブランドカラーとして大きく謳ってはいなく、「OCW-500」は、ロゴマークもブルーではなく、シルバーだったんです。
機能を伝える手法としてブルーを採用
―オシアナスで、本格的にブルーを使い始めたのは2006年発売の「OCW-M700」ですね。ブルーを採用することになった経緯を教えてください。
白石:「OCW-M700」を出した時も、まだ「ブランドカラーとしてやっていこう!」という感じではなく、ブルーをワンポイントにしている点の評価がお客さまから高く、ブルーを使っていこうという流れが社内にできてきていたんですね。
オシアナスがブルー、というイメージが徐々に根付いてきていたので、「OCW-M700」はそのブルーを使って、機能をアピールしようと考えたんです。
このモデルは、マルチバンド5という世界5局の標準電波に対応しているんですが、それまでは国内2局の電波に対応していたのが、5局に増えて世界中で使えるようになりました。
この機能をデザインで伝えるために、海をわたって外に向かっていくという意味合いと、ブルーには先進的なイメージもあるので、その二つを表現するために綺麗なブルーを使いました。
―2006年当時、こんなに大胆にブルーを使うのは珍しかったですか?
白石:そうですね。当時、時計といえば、黒や白などベーシックな色味のものが多かったので、こんなに大胆に青を使ったのは、カシオが初めてだったんじゃないかなと思います。
蒸着という手法を使って、きらっとした青を目指しました。
オシアナスは後発ブランドなので、何か個性を与えないと、というのはずっと考えていました。それで、機能に焦点を当てるためにブルーを使ったんです。
カシオの時計は機能美がコンセプトとしてあるので、オシアナスも同じ考え方でデザインをしています。
ブルーからは離れますが、「OCW-M700」は色々な仕掛けを入れていて、タイドグラフが付いて潮汐が見れるようになっています。
普通のクロノグラフだと、同じ大きさの丸が3つレイアウトされているのが一般的ですが、対してカシオは機能時計を作っているメーカーなので、オシアナスらしさとしてクロノグラフに潮汐を入れようと考えたんです。
デザインもそれを活かして、あえてインダイアルの大きさに変化をつけました。
実際にビジネスマンが満潮・干潮を時計で見ることはあまりないと思うんですが(笑)、遊び心としてこういうギミックを入れています。
「OCW-M700」を出した結果、狙い通りブルーへ高い評価をいただけて、そこからブルーを使っていこうという方向性が定まりました。
モデルの技術革新と共に広がったブルーの表現
―これまでの20年間のなかで、ブルーの表現で節目となったモデルを教えてください。
白石:たくさんありますが、まず一つ目は2009年発売の「OCW-S1400」。
ブルーの外周リングを、さらに広く取りブルーを際立たせました。
この時もマルチバンド6という、対応する電波がさらに1局増えたのと、針位置自動補正機能などを備えたタフムーブメントを新たに搭載したモデルなので、技術進化を表すためにブルーをより大胆に使いました。
世界時計、というのを印象づけるために、リングの都市名をあえてフル表記にしています。また、小針のレイアウトも変えていて、通常は縦や横に配置するのが普通ですが、並びを変則的にしています。
フェイスに変化を与えながら、さらに金属リングの部分にはきらっとブルーを持ってきて、性能や独自性をブルーで表現しました。さらに、インデックスも全部青で、これでもか、と青を使ったモデルです。
金属リングには、スパッタリングという、新しい着色技術を始めて採用しています。ぺたっとした印刷ではなく、金属の被膜を付けています。
レコード挽きのような精密に仕上げた面に金属の被膜を着けているので、本当に綺麗に光るブルーを実現できました。
このモデルは、今でもオシアナスを代表するフェイスデザインになっています。
開発時は、社内でも「こんなに青を使って大丈夫?」と心配する意見は出ました(笑)が、私たちはデザインとしてかなり個性を出せているし、他社もやっていない、ブルーが好きな男性はたくさんいるし、「絶対いける!」と主張して。
当時って、皆スーツを着てて黒、紺、グレーの色味が多いなかで、個性を主張する場所は時計とか、靴、ベルトくらいしかなかったので、ブルーの時計をするとスーツに映えるんです。多少色味が強くてもアピールになるし、スーツスタイルにも合うと思って。
結果、かなりの大ヒットになり、これでオシアナスはブルーで行こう、と決定づけたモデルです。
もう一つは、2017年発売の「OCW-G2000C」です。
このモデルは、標準電波とGPS電波の受信に加えて、Bluetoothも搭載しスマートフォンを介して時刻修正ができるようになったのですが、この技術進化に対応しデザインでも大きな進化を遂げています。
この時は、ブルーの新しい表現として、オシアナスで初めてベゼルにサファイアガラスを使用しました。世界中で正確な時刻を把握できるようになったという意味合いで、さまざまな海をイメージして色々なブルーを見せたいという狙いで、サファイアガラスにグラデーションさせたスパッタリング着色を施しています。
ワールドタイムが進化した、ということをデザインでも伝えたかったので、時差のプラスとマイナスを分けるためにグラデーションで分けました。
12時と6時側のインダイアルは、海のオシアナスとの親和性も高い白蝶貝を使って、そこにブルーの着色をしています。
さまざまなブルーの表情が出るように、とことんこだわったモデルです。
ちなみに細かいところですが、このモデルは日付と都市をそれぞれディスクがあって回るダブルディスクになっていて、そこのディスクも青く蒸着をしています。
カシオの時計チームは、商品企画、中身のエンジンとなるモジュール、設計、デザインなどの各メンバーが初期段階から一緒に製品開発を進めるのですが、「OCW-G2000C」は新モジュールだったので、ここのディスクは青く蒸着できる部品にしてほしい、と要望を出して。設計者からしたら、こんなに小さいところに最新技術を使うの?と言われますが、ダブルディスクがこのモジュールの見せ場なので、一番目に留まるところにブルーを使うのは当たり前だと考えたんです。
社内で話しているのは、私たちは技術者と一緒にデザインをしているんだと。技術を知りながら、その技術を応用してデザインをしているんです。
製品の開発とは別に、要素開発といって、どういう綺麗なブルーができるのかということを実験しています。新しいモジュールができる、こんな製品が次はくる、という新規なモデルがでてきた時に、新しい技術を出せるようにブルーの表現の進化も常に考えています。
機能美が軸にあってこそブルーの表現も進化していく
―この20年、ブルーの表現で守り続けていること、逆に変化してきたことを教えてください。
白石:ずっと守り続けていることは、機能美の表現としてブルーを使っているので、単なる色が変わったということでなく、技術を伝えるための美しいブルーをずっと追い続けています。
素材を組み合わせたり、違う素材に着色をしたり、例えば過去にやっていた江戸切子など伝統工芸と合わせてたりでも、技術を表現するブルーというのは意識しています。
変化してきたことは、時代やトレンドに合わせてブルーの表現は変化させてきたと思います。ただ機能美を表現するというのは軸にありますが。
使う人のライフスタイルに馴染む、というのは意識していますね。
例えば、最近はかちっとしたスーツを着る人も少なくなってきている社会背景もあるので、よりカジュアルなスタイルにも合うようなシーンを描いてブルーの表現を変化させてきています。
例えばカラーバリエーションも変えていて、以前はブラックとブルーが主でしたが、最近はグリーンのような色味や白も取り入れたりして、よりカジュアルな休日でも着けやすいモデルを意識しています。
―最後にオシアナスユーザーの皆さまへメッセージをお願いします。
白石:時計って道具なんですけど、工業製品としての美しさを追求し、細部にまで神経をとがらせて作っています。今後も時代やライフスタイルに合わせながら、ブルーの表現を進化させていき、刺激や遊び心を感じる腕時計を開発し続けていきますので、ぜひこれからのオシアナスにもご期待いただければと思います。
【オシアナスの過去の記事はこちら】