関係者の熱い想いをひとつに。教育事業のブランドデザイン
こんにちは。CASIO DESIGN WEB編集部です。
カシオ計算機という社名の通り、計算機(電卓)から始まったカシオですが、今では電卓だけではなく学習アプリを含む教育事業に力を入れています。
今回は、そんなカシオの教育事業に関わるブランドデザインの開発ストーリーを、ブランドデザイン室の初代室長 杉浦さんとそれを継いだ現室長村田さんのお二人に話をお聞きしました!
カシオの教育事業を語る上で欠かせない
関数電卓とは
関数電卓というと日本ではあまり馴染みのない方が多いのではないでしょうか。三角関数や微分・積分などの計算ができる関数電卓は、実は海外では多くの国で数学の授業に必須のもの。学校指定で購入されることも多いカシオの関数電卓は、海外で高いシェアを保持しています。
そんな関数電卓をはじめとするカシオの教育事業のステイトメントが、Boost your Curiosity。その誕生までのストーリーとブランドデザインに込められた想いをご紹介します。
ブランドデザインの重要性
ブランドデザインとは、ロゴやパッケージ、ウェブサイトなど全てを包括する共通のイメージを作り出し独自化をすること。
杉浦:ブランドデザインって何やるの?と疑問に思う方が多いかもしれません。ブランドデザインでは、プロダクトやウェブサイト・ビジュアル・パッケージといったすべてを包括するブランドの方針を策定し、それに基づきデザインするのが主な仕事です。
村田:教育事業はグローバルに展開されていて、かつ歴史も長く、各国の状況によって制作物はまちまちです。その全てを、ブランドデザイン室でデザインするわけではないので、展開した時に軸となるものがないとブランドイメージの統一は図れません。だからこそ、ブランドデザインはとても重要なんです。
関係者の想いをひとつにするために
言葉の選定からスタート
教育事業全体に関わる大きなプロジェクトですが、最初から「一気に変えよう!」というものではなかったそう。
杉浦:欧州で展開している関数電卓のパッケージの素材や形状が変わることになりました。それなら『せっかくならもう少し大きなところからブランドを見つめ直してみてもいいのでは?』と提案したんです。
村田:まずパッケージデザインをリニューアルすることは決まっていたものの、プロダクトデザインのようにデザイン変更に時間を要するものもある中で、全てを同時に変えるのは難しい状態でした。まずはパッケージデザインに着手しながら、たくさんの関係者が共通認識を持てるよう、ステイトメントの策定からスタートしたんです。
杉浦:ステイトメントとは、「宣言」「表明」などさまざまな訳され方をしますが、ブランドの方針を一言で表す言葉と考えていただければと思います。プロジェクトマネジメントする立場として、ブランドについての共通認識を合わせられるようにとにかくコミュニケーションを大事にしました。海外の担当者が日本に来る際には必ずアポを取って、デザインを見せたりこう考えているというのを何度も何度もまっすぐ伝えましたね。
村田:企画や営業など、さまざまな関係者とコミュニケーションを重ねることで、私たちが描くべきブランドデザイン像もクリアになっていきました。事業全体を俯瞰できたことで、結果として私たちがやるべきことも明確になったと思います。
手応えを感じたフランスでのプレゼンテーション
そうして固まってきたデザインを携えて、デザイナー自らがフランスでプレゼンテーション。フランスは関数電卓の売り上げが一番大きく、まずは影響力の大きいフランスで行ったということですが言葉の壁などはなかったのでしょうか。
村田:正直言葉の壁はありましたが….全体を包括したステイトメントをしっかり説明したことで、目指すべき方向を理解してもらえた感触はありました。なので、提案したデザインの良い悪いだけではなく、「そういう方針ならさらにこうした方がいいのでは」など前向きなディスカッションができたのも印象的です。
杉浦:言語や文化が異なる海外のメンバーとのやりとりでは、理路整然と言葉で説明することが求められます。教育事業以外にもステイトメントを作った経験があり、その成功体験もうまく活かすことができたかなと思っています。
村田:フランスのプレゼンでは元々の目的のパッケージデザインのリニューアルだけでなく、ステイトメントに沿ったカタログやWEBデザインも一緒に提案しました。大きな方針に共感が得られていたので、すぐやろう!と即決してもらえたはいいものの、次の入学タイミングを考えると時間全然がなく、急ピッチで対応することになったのが大変でした(笑)
完成したステイトメント Boost your Curiosity
あなたの好奇心を後押しするという意味のBoost your Curiosity。
「数学=難しい」というネガティブな印象から国際的な数学履修者の減少傾向が加速していることを受け、より親しみやすく数学への学生の好奇心を育むきっかけになれるようにという想いが込められています。
杉浦:始めは、フランス・欧州という限定した地域に向けて策定したステイトメントでしたが、グローバルに展開しようという声が社内であがり、グローバル版にアップデートすることになりました。当初から、ゆくゆくはグローバルに展開したいという考えはあったので、フランスの事例がそれを加速させる良いきっかけになったと思います。
村田:改めて、様々な関係者に話を聞きました。国や地域によって教育の仕組みや授業の仕方が異なり、カシオ商品の普及度にも違いがあります。そのため、取り組んでいる課題は様々なのですが、根本にある教育への考えやそこにカシオがどう寄り添っていきたいかの想いは共通してると感じることができました。
新しいブランドデザインでは、カシオブランドへの信頼を大切にしつつ、従来よりも親近感のある存在へとポジションをシフトし、時代にフィットするデザインに仕上げていこうというものでした。
杉浦:関数電卓は指名買いされる場合が多く、モデル名で探しにくるお客さんがほとんどです。なので、そのモデル名を強調しつつ、文字組をちょっとだけユニークに表現しています。メーカーとしては訴求したい機能もたくさん書きたい要望もあるのですが、煩雑にならないよう調整しています。
村田:学生が少しでも学習に前向きになれるようなデザインという観点で、幅広いバリエーションでアイデアを発散しました。そのユニークさを活かしつつ学習機器としての信頼性も保つにはどんなデザインが良いか、多くの候補案を作成しています。パッケージデザインは、折ったり・切ったり・穴を空けて立体にして検討するんですが、検討したアイデアの数だけ工作するのが、意外と大変なんです。
それぞれのデザイナーの手で進化し、
広がり続けるデザイン
プロモーション制作物のガイドラインとして、各国・地域のデザイナーが製作しやすいよう、最低限の取り決めごとだけを策定し、ブランドデザインを統一しつつもそれぞれの特徴が出るよう促しました。
村田:具体的な取り決めは最低限にし、ステイトメントの説明や、なぜこのデザインなのかという意図をしっかり記載しています。国によって社会状況や文化も違い、例えばキャラクター表現が教育現場にそぐわないと考える国もあるので、状況に応じて最適なデザインをつくれるような自由度を残しました。
杉浦:事例ができることでどんどんやりやすくなっていきました。ブランドデザイン室にも新たなメンバーが増え、ガイドライン制作時にはいなかったメンバーも、このガイドラインをもとにさまざまなデザインを作り出してくれていっています。しかしこれで終わりではありません。むしろ、ようやくスタートラインに立ったという認識に近いかもしれません。
村田:今回たくさんの人とコミュニケーションを重ねることで色々な考えにふれることができましたし、どうすれば人に伝わるのか、伝わらないのかを経験できました。カシオの教育事業自体、まだまだご存じない方も多いですから、これからもより多くの方に伝えていきたいですね。
教育事業に関しては、海外に向けてのツールが多いので「カシオってこんなことやってたんだ」と思う方も多いのではないでしょうか?
今後も、CASIO DESIGNについてもっと知っていただけるようさまざまな情報をお伝えしていければと思います!
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