このペンギン、いったい何者?~カシペン誕生から復活まで~
はじめまして、CASIO DESIGN WEB編集部です!
CASIO DESIGN WEBはデザインストーリーやデザイナーの業務、周辺情報を紹介しているサイトです。
その「CASIO DESIGN WEB」やコーポレートサイトの端々に登場するこちらのペンギンを知っていますか?
知らない人も、見たことはあるけれど「なぜペンギン?」と疑問に感じた人もいるかもしれません。
今回はこのペンギン、通称“カシペン”の正体を明らかにするべく、当時を知るデザイナーと、現在カシペンチームに携わるデザイナーにインタビューを行いました。
始まりは、ガラケーの壁紙だった
カシペンってなんだ?
一言でいうとカシオオリジナルのペンギンのキャラクターなのですが、その実態はカシオが過去に手がけていたケータイのデザインに対する思想「ハート・クラフト」の説明なしに語ることはできません。
ということで、カシペンにつながるちょっと前のストーリーから説明したいと思います。
村田:カシオというと、腕時計や電子文具、楽器などのイメージが強いなか、1995年から、ガラパゴス携帯いわゆる「ガラケー」を作っていました。スマホ世代の大井さんにはあまりピンとこないかもしれませんが…(笑)。
大井:そうですね(笑)
村田:当時ガラケーといえば、最先端の電子機器で、どんどん多機能化が進んでいました。一方で、あの小さな機械の中で何が起きているのかよくわからない。そんなブラックボックス的な部分もありました。
大井:つまりユーザーからすると、使い方がわかりにくかったり、取っつきにくさを感じさせることもあったということでしょうか?
村田:そうなんです。そこで、ユーザーがより使いやすさ、親しみやすさを感じられるように、カシペンをはじめとして、壁紙(待受画面)や操作画面のデザインにも力を入れていました。
ペンギンの前身は“顔”
コンセプトの「ハート・クラフト」とは
村田:「ハート・クラフト」という、カシオ独自のデザイン思想を初めて取り入れたのが「A5512CA」という機種です。
大井:私も入社してから「ハート・クラフト」とは、について教えてもらいました。
村田:当時のガラケーの壁紙は、画質のよさをアピールするための風景写真や幾何学模様などが壁紙の主流で、プロダクト自体のデザインやカラーも、精密機器としてのシャープ感が強く表現されていました。
それによってケータイは操作が難しい印象を持つ人も多かったのですが、「A5512CA」ではケータイを開くたびにほっとしたり、ワクワクしたりする画面にしたいなという思いで作られたデザインのひとつが、大胆にも画面をそのまま“顔”にするデザインでした。
大井:名付けて、“顔くん”! 線で顔のパーツを描いたシンプルなデザインですが、時間帯や電池残量に連動していろんな表情をしてくれるんですね。
村田:画面のデザインだけでなくプロダクトも含めて、「持つ・開く・使う・しまう」など、「手に持つ道具」としての基本的な使い心地のよさや、使い込むうちに愛着を感じることができる、手作りに近いモノづくりが「ハート・クラフト」です。
と、話している私も、先輩デザイナーから教わったもので、代々受け継がれているコンセプトなんです。
可愛すぎずクールすぎない
ペンギンがちょうどよかった
顔くん登場の翌年発売の「W41CA」で、「ハート・クラフト」を象徴するキャラクター・カシペンが誕生しました。
村田:“キャラクターを作ろう”ということから始まったのではなく、視覚的にケータイ操作をナビゲートできるデザインを考えた時に、手足のあるキャラクターが適してるということでキャラクターが誕生したと聞きました。
そのうえで、犬や猫だとベタですし、クマみたいにキャラクターとしてかわいいイメージが強い動物も避けたかった。そこで、程よくニュートラルな雰囲気をもつペンギンが選ばれました。シルエットを切り抜いたデザインで匿名性を持たせたのも特徴です。
大井:皇帝ペンギンからアデリーペンギン、イワトビペンギンなど、いろんな種類のペンギンが登場しますよね。それぞれに個性的な性格があります。
村田:ケータイの機能に結びつけながらストーリーを考えたり、壁紙のバリエーションでは、時刻や季節イベントと関連させたり、ケータイを開いた数秒でくすっとなるネタを考えるのに、毎回何百種類もネタ出しをしました。
大井:何百種類……すごいです! そういえばこの独特の雰囲気は、海外のデザインを参考にされてると聞きました。
村田:そうです。当時のデザインチームがみんな海外好きで、海外出張や旅行に行った後には、お土産として、本とか雑貨を大量に持って帰って来て、それらの世界観をヒントにデザインしていました。今でこそ簡単に海外のデザイン情報が手に入りますが、当時はそれが貴重な情報源だったんです。
乗り換え続出!
インターネット掲示板では“カシペン”の愛称も
W41CAは、2006年発売のau端末で売り上げトップとなり、ペンギンの大きな反響を呼びました。
大井:ネットでは、カシオのペンギン=カシペンという愛称で呼ばれ、人気だったそうですね。表参道にポップアップストアを出店。関連グッズや書籍も販売されたと聞きました。
村田:インターネット掲示板で、カシペンの専用スレッドが立っていたらしいです。もともとペンギンには名前がない設定でしたが、ファンの人たちに名前をつけてもらえるって愛されてますよね。
ペンギン目当てに機種変更してくださる人もいて、それまで画面デザインでケータイを選ぶというカルチャーはなかったので、その点でもカシオケータイは新しい価値観を提供できていたのかなと思います。
私が入社したのはカシペンが登場した後でしたが、同期にはW41CAを使っていて入社した人や、カシペンを見て携帯電話にかかわる仕事をしたいと入社した人もいました。私も含め「電子機器メーカーなのに、こんな可愛いことをやっているんだ」という意外性が、入社の理由の一つになった人もいましたよ。
大井:カシペンの親しみやすさはユーザーだけでなく、カシオで働きたいと思っている人たちにも影響を与えていたんですね!
皮肉をユーモアに変えた
カシオのカツオや2頭のゴリラまで
村田:ペンギンが人気者になったことで、次なるキャラクターへの期待値も高まっていました。世の中的にも画面デザインに凝ったり、動物を起用するケータイが増えているなか、あえて誰も起用しないであろう動物で意表を突こうと。で、カツオ(笑)。
大井:領収書の宛名、“カツオ計算機”によく間違えられていたからですよね(笑)。
村田:どうせ間違えられるなら利用してしまおう。そんな皮肉をアイデアへ転換できるところもまた、カシオらしいなと思います。
大井:カツオは食材ということもあり、少し手荒なストーリーになっていて、干からびたり、煮られたり。ペンギンでは表現できないようなシュールなアニメーションも面白いですね。
村田:その次の「G'z One W62CA」は、ゴリラでした。時代的にもクールビズなどが広まっていた時で、環境問題についてちゃんと考えないといけないんじゃないの?という危機感をテーマに、ゴミをちゃんと分別して捨てる”エコゴリラ”と、逆に散らかす”エゴゴリラ”というキャラクター設定でしたね。
他には、高画質液晶の機種では、小さいキャラ”ミジンコ”や、防水カメラが特徴の機種では、実写の”アヒル”(お風呂に浮かべるおもちゃ)などがいましたね。
ハート・クラフトの精神はもちろんですが、そうした時代の流れや雰囲気も汲み取りながら、機種の特徴と合わせて新しいキャラクターを生み出していたのも、カシオケータイの特徴でした。
情報と人を、人と人をつなぐ
架け橋となるカシペン
カシオが携帯事業から撤退してしばらくの間、カシペンは表舞台から姿を消していました。しかし、2020年に発足したカシオの社内用WEBサイトで再び登場します。
大井:きっかけは社内ポータルサイトでした。こういうサイトはどうしても真面目でカタイ話になりがちです。それでデザインまで堅苦しかったら、見てほしいものも見てもらえない。そこでデザインを担当したWEBチームがキーワードとして掲げたのが、「発信」「共有」「遊び心」。
この遊び心を表現するために親しみやすいキャラクターが必要ということで、カシペンに白羽の矢が立ったわけですね。
村田:目をつけたのは、ケータイ時代には携わっていなかった新しいメンバーでした。彼女がカシペンに期待したのは、当時を知る上の世代と知らない下の世代をつなぐ架け橋となることでした。
大井:私のようなスマホ世代にとっては、会社にこんなにすごいキャラクターがいるということは誇りになります。
コーポレートサイトや社内ポスターなど
さまざまなツールに活用
大井:対外的なコンテンツとしては、カシオのデザイン部のリクルートサイト「CASIO DESIGN WEB」、コーポレートサイトのサステナビリティページのデザインなどに使われています。
社内用のWEBサイトと同じように、会社のことを伝えようとするとどうしてもカタイ内容になってしまうので。少しでも印象を柔らかくし、情報が入りやすいように、カシペンのキャラクターを活用しています。
村田:社内向けだと、社員がカシペン素材を利用できるカシペンサイトがあります。カシペンを使用したい場合に問い合わせできる窓口を設けていて、希望の用途やデザインに合わせてカシペンチームから素材を提供しています。社内イベントのポスターに登場したりもしています。
大井:他にも、パワーポイントなど資料に使える挿絵やオンライン会議用の壁紙など、素材もいろいろと用意しています。
村田:社外の方との打ち合わせでは話のネタになりますし、会議の場が和んだりするので、色々な人が使ってくれていますよね。
大井:同期の社員も、オンライン会議用の壁紙にカシペンを使っていたり、新人研修の発表の資料にカシペンの挿絵を積極的に取り入れてくれてました。
性別、年代問わず使ってくれているのを見ると、可愛さもありつつ程よくクールで、ジェンダーレスなちょうどいい存在だなと思います。古くささはなく、むしろ新しさすら感じる。18年も前のキャラクターとは思えないですよね。
カシペンの魅力はそのままに
もっと広めていきたい
大井:ガラケー時代の二次元の表現だけじゃなくて、アイソメトリック※を取り入れることで奥行きを見せたり、カラーも内容によって新しくしたりして、表現の幅が広がっています。
※対象物を斜め上から見下ろすような視点で、図やイラストを描く手法
村田:ストーリーや、登場するモチーフなんかも、時代に合わせて少しずつ進化しているんですよね。
大井:カシペンサイトの存在をまだ知らない社員も多いので、まずはもっと活用してもらいやすい状況を作っていきたいです。そのために素材集を増やしたり、そもそもカシペンが何なのかを知ってもらうためのコンテンツを増やしていきたいですね。
村田:広めていくと同時に、ポリシーを浸透させていくことも大切だと思っています。
キャラクターなので、可愛い表現とか、喋らせたい要望があるんですが、一定のクールさを保つためにお断りすることもあります。そうやって、さまざまな部門の人に正しくカシペンを理解してもらい、「これ、カシペンに合いそうじゃない?」と使いたくなってもらえるような環境にしていきたいです。そうしたインナーの活動を、社内だけじゃなくて、対外的なプロダクトやサービスへも繋げていけたらいいなと思ってます。
ケータイ時代から現在まで、脈々と受け継がれてきたキャラクター。
カシペンとは何者なのか、少しでも知ってもらえましたか?
今後も、多くの人に愛される存在になれるように活動していきます。これからのカシペンをぜひ見守っていてください!
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